施設に新しい女性の利用者様が来られました。これがかなり個性的な方で職員を戸惑わせています…
多くのお年寄りは入所されてしばらくの間は最小限の私物で過ごされる事が多く、そこから施設に慣れていき、徐々に自分の私物が部屋に増えていきますが…
その利用者様は違いました。
初日から大量の荷物!!おおげさでなく、軽トラ1台分くらいはあるんじゃないか…?
買い物の依頼も半端じゃなく、何かを頼まれて持っていくと、その時にまた次のものを注文するといった調子です。もちろん認知症の症状はありません。
職員の中には「あの人だけ特別扱いでいいのか、他の方に示しがつかないんじゃないか?」と言われる方もいらっしゃいました。
しかし私は介護職員や看護職員に状況を説明しながら、その方のわがままに付き合っていました。仕事が終わったあと車で往復1時間かけてホームセンターで家具を購入して届けたり。
もちろん、「このままでいいのかな」という一抹の不安はありましたが…
ここから、本題に入ります。
利用者様にはそれぞれ、「生活のレール」があるように感じます。
施設に入所される時、それまで乗っておられた病院なり老健なり自宅なりの「生活のレール」から、特養の「生活のレール」に路線変更される事になります。
この路線変更への対応が非常に重要で、その方がその後施設で落ち着いて生活できるかどうかに大きく影響します。
みなさんもご存知のように、施設というのは一種独特な空間です。入所された利用者様は、その施設だけの特殊なルールや、普段は考えもしないような気遣いが急に必要になったりします。
ほとんどの方が、この「生活レールの路線変更」に翻弄され、素人目には奇異にうつる行動や言動をしてしまい、職員や家族様を心配させてしまいます。
しかしそこで
「ここに入ったのだから、他の利用者さんと同じように生活してください。」
「わがままを言わないでください。」
などの言葉でその方を抑制してしまうと、新しい生活のレールになかなか乗っかる事ができなくなってしまうのです。
この話は完全に自分の個人的見解で、なんの根拠もありません。でも今ままでの経験則から、入ったばかりの入所者様には、できるかぎり手間をかけ、相手の考えや要望に共感している事を、職員の行動で示していくべきだと考えています。
最初にお話された方ですが、結局は担当のケアマネさんから家族様に話が行き、本人様は生活の態度を改めるよう家族様から叱責されたそうです。
私はその方から謝罪されました。でもその際、「私が施設に入ったばかりだったから、わがままを聞いてくれてたのね。」とおっしゃってくださいました。
これがもしも、最初の段階でその方のわがままを拒絶していたらどうなっていたでしょうか?
「生活のレール」は認知症のあるなしに関係なく存在します。認知症の強い方の「生活のレール」は潜在意識の中にあるので、あれこれ要求される利用者様よりレールに乗ってもらうまでの難易度が高いと言えます。
私の施設のスタッフはみなさん優秀です。いろんな性格の方がこられますが、それらの方がいつの間にか「生活のレール」に乗っかっているからです。
「はじめまして」はお互い様。相互に理解ができるまでの間、多少のきまりやルールは(内緒で)融通をきかせてほしい。ほんのひとときの手間や苦労が、先々では介護職員たちの余計な仕事を減らし、ストレスを大きく軽減してくれるはずですから。